アンプラッツアー心房中隔欠損閉鎖セットが2005年3月に厚生労働省から輸入承認され、2006年4月には健康保険適応となり、カテーテルによる経皮的心房中隔欠損閉鎖術が可能となりました。2007年から東京女子医科大学においてもこのカテーテル治療が可能となっています。
1.心房中隔欠損(Atrial Septal Defect: ASD)とは?
心房中隔欠損とは、右心房と左心房の間の心房中隔という壁に「穴」(欠損孔)があいている先天性の心臓病です。左心房から右心房に血液が流れ込み、右心室や肺動脈を流れる血流量が増加します。
2.心房中隔欠損の症状は?
10歳台までは症状が無い事が多く、学校検診のときに心雑音や心電図異常で発見されることが多い病気です。心雑音も大きい雑音ではないので、見逃されることも多々あります。
右心房や、右室、肺動脈への血流が増加して、右心房、右室、肺動脈が拡大(容量負荷)します。肺血流の増加が続くと思春期を過ぎた頃より肺動脈圧が上昇 して肺高血圧となることもあります。また右心房の拡大が続くと、不整脈が起こりやすくなります。不整脈は、右心房にある脈の司令塔に支障がきたり(洞結節 不全といいます)、心房細動(心房の収縮が細かく震えるようになる不整脈)となったりします。
おもな症状は、息切れ、運動時の呼吸困難、動悸などです。
加齢に伴って、欠損孔を通じて左心房から右心房への血流が増えることが知られています。
3.心房中隔欠損症は全例治療が必要?
穴が開いているからといって全例治療が必要なわけではありません。小さな穴で、穴を通る血液が少ない場合や、右心房や右心室が拡大していない場合には治 療は不要です。ただ、静脈にできた血液の固まり〔血栓〕が穴を通って脳の動脈にとんで、脳動脈がつまったことのある方は、小さな欠損孔でも治療が必要とな ることがあります。
一般的には肺血流・体血流比が1.5以上の場合や、 右心房や右心室が拡大している場合に治療が必要とされています。
4.いつ治療したらよいか?
一般的には2−3歳以上、体重は15kg以上で治療します。乳児期に治療することはまれです。上限の年齢はありません。70−80歳で治療される方もお られます。能書(器具の使用法を記載した文書)には、「患者さんの体格、心臓または静脈がカテーテル治療を実施するには小さすぎる場合、または治療に耐え られないと判断される容態の場合」には使用しないことと記載されています。
5.どのようにして治すのか?
心房中隔欠損に対しては、①心臓外科治療と ②アンプラッツアー(Amplater)閉鎖栓を使ったカテーテル治療の2つの治療法があります。患者様はどちらかの治療を選ぶことが出来ます。
6.アンプラッツアー(Amplater)閉鎖栓とは?
閉鎖栓は2枚の笠とそれをむすぶ筒が一体となったもので、ニッケル‐チタン合金(ニチノール)製の細いワイヤーを網状に編んで作られています。ニチノール は形状記憶合金と呼ばれる金属で、医療材料として広く用いられています。閉鎖栓は網状のままだと血液が通ってしまいますので、なかにポリエステル製の布が 縫いつけられています。伸縮性に富んでおり、伸ばすと細い棒の様になりますので、カテーテル内に収納できます。カテーテルの外に出ると、もとの笠の形にも どります。
この閉鎖栓を心臓まで運搬する装置が、デリバリーシステムです。デリバリーシステムは、閉鎖栓とネジでつなげるデリバリーケーブル(細い金属製のワイ ヤー)と、ロングシースと呼ばれる長い3mm程度の細い管がセットになっており、閉鎖栓を体内へ安全に運搬できるように設計されています。
閉鎖栓とデリバリーケーブルはネジで結合でき、ネジを回転させると閉鎖栓はデリバリーケーブルから離れます。
本人が入院中に付き添われる方(お母様など)の感染症の罹患歴や予防接種歴も入院当日お尋ねしますので、あらかじめ調べておいていただけると幸いです。 患者さんと一緒に病棟内で過ごされるご両親も、免疫がないときは伝染病患者と接触後に発症することがあります。伝染病患者と接触したときには、かかったこ とがあるか、予防接種を受けたかをご確認いただき、質問票にご記入下さい。
7.心房中隔欠損閉鎖の実際の方法は?
通常は、気管内挿管をして、全身麻酔をかけます。まず経食道心エコーを用いて心房中隔欠損の位置、サイズ、欠欠損孔の辺縁の長さ、その他の心合併の有 無、血栓の有無などについて検査します。カテーテル検査の為に、通常は、鼡径部(足の付け根)から大腿静脈を穿刺し、シースと呼ばれるカテーテルを挿入で きる管を入れます。カテーテル検査を施行し、心臓の各部位の圧を測定し、採血します。心臓カテ-テル検査で、肺動脈圧を測定しその後肺/体血流比を求め、 閉鎖の適応を決定します。その後、造影検査を行います。
次いで、風船がついた専用のバルーンカテーテルを、心房中隔欠損の部位に置き、風船をふくらませて、心房中隔欠損をふさぎ、その時の風船の大きさを測定して、用いる閉鎖栓の大きさを決定します。
左心房まで閉鎖栓を運ぶ専用のカテーテル(シース)を進めます。デリバリーケーブルにつなげた閉鎖栓をシースを通して進めます。食道エコーで観察しなが ら、笠の一方を左心房で開きます。その後、笠の手前側を右心房で開きます。2枚の笠で心房中隔を挟んでいることを確かめた後、デリバリーケーブルのネジを 回転させ閉鎖栓をデリバリーケーブルから離します。
閉鎖栓がデリバリーケーブルから切り離されるまでは、閉鎖栓は簡単に回収することができます。いったん切り離されると、体外に回収することは困難になりますが、絶対に不可能ではありません。
8.カテーテル治療の効果は?
閉鎖栓留置が成功すれば、右室の負荷は軽減し、手術と同等の効果が期待されます。
9.カテーテル治療後に必要なこと
閉鎖栓が心臓内で安定するまでの約1か月間は運動を避ける必要があります。日常生活での身体を動かすことは問題ありません。治療後最低6か月間は抗血小 板薬(おもにアスピリン、40歳以上の方は2種類の薬)を服用していただきます。抗血小板薬の服用は、血栓の形成を予防するためです。また治療後最低6か 月間は心内膜炎の予防措置が必要です。退院後は定期的な経過観察のために外来受診していただきます。外来ではエコー検査などを行います。最低5年間は外来 で経過観察する必要があります。
10.カテーテル治療の利点と欠点は?
心房中隔欠損症は手術で治す方法もあります。手術では、胸部を切開し、人工心肺を使って心臓をとめ、欠損部を直接縫合したり、人工の布でふさいだりしま す。カテーテル治療と手術は、どちらも一長一短があり、どちらも危険を伴います。どちらの方法を選択されるかは、患者様自身またはご両親の自由意志により 決定していただきます。合併症の頻度は、手術に比べ、カテーテル治療の方が少ないというデータがあります。ただし、カテーテル治療が成功しないときや、閉 鎖栓が落下したときは、手術での治療となります。
カテーテル治療の利点
入院期間が短いこと、すぐ社会復帰できること、傷がつかないこと、手術創の感染のリスクが無いこと、人工心肺のリスクがないこと、などです。
カテーテル治療の欠点
心房中隔欠損の位置や大きさによっては閉鎖できないことがあること、カテーテル治療の合併症が起こりうること、治療の歴史が手術に比べ短く、長期成績が明らかでないことなどです。
手術の利点
心房中隔欠損の位置や大きさによらず治療できること、治療の歴史が長いこと、などです。
手術の欠点
入院期間が比較的長いこと、すぐ社会復帰できないこと、傷がつくこと、手術創の感染のリスクがあること、人工心肺のリスクがあること、などです。
11.カテーテル治療のリスクは?
カテーテル治療を行う場合には、カテーテル検査の危険や合併症に加えて、この治療に特有な合併症が起こる可能性があります。 閉鎖栓留置に伴うリスクには、
- 操作中に心嚢内へ出血することによるタンポナーデ(心嚢内の血液で心臓が圧迫されて血圧が下がる状態)
- 閉鎖栓の落下
- 空気塞栓
- 頭痛
- 留置後に、閉鎖栓と大動脈が接触し、大動脈に小さな穴があき(穿孔)、出血することがあること
- 閉鎖栓に血栓が付着することがあること
- 欠損孔が完全にふさがらず少ない短絡が残ること
- 僧帽弁を傷つけて逆流が発生すること
- 房室ブロックなどの不整脈
- 死亡
12.カテーテル治療の適応と禁忌
①治療の適応
- 心房中隔欠損のうち二次孔型の心房中隔欠損であること。
- 右心室への過剰な血液流入の臨床的根拠(右心室の容量負荷)が認められること。
- 小短絡であっても、奇異性血栓や心房粗動・心房細動などのリズム異常があるなど臨床症状がある場合
②治療の禁忌
以下のいずれかに該当する場合、カテーテル閉鎖術は受けることができません。
- 2次孔型心房中隔欠損以外の心房中隔欠損
- 他の合併する先天性心疾患を有し、適切な修復が心臓外科手術によってのみ可能な患者
- 複数の欠損孔を有し、ASOにより適切に閉鎖できない患者
- 心臓外科手術に耐えられないまたは禁忌となる患者
- 患者さんの体格、心臓または静脈がカテーテル治療を実施するには小さすぎる場合、または治療に耐えられないと判断される容態の場合。
- 術前1ヶ月以内に敗血症などの重症感染症を発症した患者。
ただし感染症完治後であれば閉鎖術を受けることが可能です。 - 出血性疾患、未治療の潰瘍がある場合、またはアスピリン(抗血小板薬)を服用できない場合。
状況により他の血液抗凝固薬を処方する場合もありますが、代替薬の投与が不可能な場合は治療を受けることができません。 - 欠損孔の周辺にオクルーダーを確実に固定するための十分な中隔組織がない場合(前上方を除く)。
- ニッケルアレルギーがある場合。
2009年1月26日更新