遺伝子解析など当科の取り組む基礎研究
当科では基礎研究を国際分子免疫研究および心研研究部において行っています。
疾患細胞株を用いた研究
1.疾患細胞株を用いた遺伝子解析
循環器小児科では、これまでに先天性QT延長症候群、肥大型心筋症、拡張型心筋症の疾患責任遺伝子変異の検索とその機能解析、原発性肺高血圧症、内臓錯位症候群、22q11.2欠失症候群(円錐動脈幹異常顔貌症候群)、Williams症候群、Noonan症候群、Holt-Oram症候群、Marfan症候群、心中隔欠損における遺伝子異常の検索および新規疾患遺伝子の同定等を行ってきました。
これらの遺伝子解析のために、心疾患患者およびそのご家族から同意を得て血液を得、不死化B細胞からなる長期保存可能な4,400株の細胞株を樹立し、遺伝子解析を進めてきました。本細胞株は、患者の病態、詳細な表現型、遺伝子解析の情報を備えた、世界的に見ても他に類をみない貴重な疾患細胞株です。このような疾患研究を進めるため、当科では、年間約100検体の循環器疾患患者の血液細胞の株化を継続しています。この疾患細胞株は、日本の循環器分野におけるヒトリンパ球バンクであり、我々は遺伝子解析として重要な役割を果たしていきたいと考えています。
今後も引き続き、分子生物学的手法を用いて各種遺伝子と種々臓器組織の発達と疾病との関連の研究を進め、心血管疾患の遺伝子解析による分子疫学を併用して、原因解明、治療、予防に関する研究を行って参ります。
遺伝性心疾患や遺伝性不整脈疾患に関する遺伝子解析の相談も随時受け付けておりますので、
下記の連絡先までご連絡いただければ幸いです。
循環器小児科講師 稲井 慶
メールアドレス: inai.kei@twmu.ac.jp
2.疾患細胞株を用いた疾患iPS由来心筋細胞の機能解析
平成25年度より京都大学iPS細胞研究所との共同研究を開始し、不整脈疾患患者由来の不死化B細胞株を用いて、疾患特異的iPS細胞を作製し、心筋分化誘導後、遺伝子変異による機能の変化を評価する研究を行っています。
これまでに、不死化B細胞株からiPS細胞の作製に成功し(川口奈奈子、他. 先天性心疾患における不死化B細胞株由来induced pluripotent stem (iPS) 細胞の樹立. 日本小児循環器学会雑誌 31(6):313-319, 2015.)、現在、これら疾患特異的iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を疾患モデルとして活用すべく、薬剤応答性や不整脈の発生しやすさなどについて健常者由来の分化誘導心筋細胞との比較検討を行っています。
今後も、これら疾患iPS由来心筋細胞を用いた心機能不全などの検討、評価を行い、遺伝子変異と臨床像の関係を解明したいと考えています。
心臓発生の研究
先天性心疾患はどのようにして形成されるのだろうか?この疑問から研究が始まりました。当研究室では故高尾篤良先生、故安藤正彦先生の指導を受けて心臓形態形成について様々な視点で研究しています。
心臓は一次心臓領域細胞、二次心臓領域細胞、心外膜前駆細胞、神経堤細胞など身体のいろいろな部域からの細胞によって形成されることがわかってきていますが、当研究室のメインテーマは神経堤細胞です。神経堤細胞は発生初期にダイナミックに移動して身体のいたるところに分布する外胚葉性細胞で、近年は多能性幹細胞として再注目されています。
心臓形態形成に神経堤細胞が関わることが報告され1985年に心臓神経堤と呼ばれるようになって以来、心臓神経堤細胞は心臓形態形成と先天性心疾患に重要な位置を占めるようになり様々なシグナル因子もみつかり研究がすすんでいます。我々はこの心臓(後耳胞)神経堤と呼ばれる領域以外の神経堤(前耳胞)細胞が心臓中隔冠動脈形成に関与していることを見出し(Arima et al. 2012)、さらに甲状腺発生過程で後耳胞神経堤と前耳胞神経堤が異なる役割をしていることを見出しました(Maeda et al. 2016)。
最近では、共同研究が多くなりダイナミックに移動して停止分化する心臓神経堤細胞が二次心臓領域細胞と関わるシグナル因子のやりとり(Kodo et al.2017)、従来、心臓形態形成とは全く関係のないと考えられていた体壁葉の壁側板中胚葉が発生初期胚の心臓形成に寄与していることを報告しました(Asai et al. 2017)。